があつまるといふよりも、缺点のある人格者に友が出来るといふ方が、ヨリ痛切であらう。
他人――殊にそれが友達、殊に殊に親友――の缺陥を見せられた場合の悲痛は自分のさうした場合よりも強い。
雑草、雑木、雑魚、雑兵、等、等、――私は雑[#「雑」に白三角傍点]といふ字のつく物事に、限りない親しみと喜びとを感じる。
学校から帰宅の途次、樹明君が寄つてくれた、誘はれて八幡宮の節分祭へ参詣する約束をした。
夕飯は煮大根(正しくいへば、焦げつかせたので、焼大根)で麦飯茶漬さら/\さら、まことに簡にして純。
数日来、風邪気味なので、着れるだけ、あるだけ着て出かける、なか/\の人出である、自動車が遠慮ぶかく乗り捨てゝある風景にも近代的地方味がある。
樹明君と合して、こゝで一杯、そこで一杯、そして私はぐる/\まはつて戻つた(この中に無意味の有意味[#「無意味の有意味」に傍点]がひそむ)。
逢はない彼女[#「逢はない彼女」に傍点]、知らない恋人[#「知らない恋人」に傍点]、何が何だか分らないのよ[#「何が何だか分らないのよ」に傍点]、といふものについて漫想した(漫想といふ言葉はどうですか!)。
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・大根洗ふ指がおしへてくれる道は霜どけ
・麦飯が腹いつぱいの日向ぼつこり
・おちつくまゝに水仙のひらく
・歪んで日向の花つけた梅のよろしさ
・考へるでもなく考へぬでもなく大根洗ひつゝ
・電燈ひとつ人間ひとり
   節分三句
・さそはれてまゐる節分の月がまうへに
・月がまうへに年越の鐘が鳴る鳴る
・節分の長い石段をいつしよにのぼる
・どこかに月が、霜がふる白い道
・ふけて炊かねばならない煙がさむい
・枯野まつすぐにくる犬の尾をふつて
・そこらに大根ぶらさげることも我が家らしく
・遠い道の轍のあとの凍つてゐる
・たま/\来てくれて夕月のある空も(再録)
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 二月四日[#「二月四日」に二重傍線] 立春。

すこし夜の雪がつんでゐる、寒いことは寒いが、大したことはあるまい。
たよりいろ/\――俊和尚、孝志君、緑平老、敬治坊、そして雑草二月号。
下痢で弱つた、酒のためか、寝冷のためか、それとも麦飯のためか、とにかく腹工合も悪いし、懐工合はなほさらよくないし、節食断酒[#「節食断酒」に傍点]の好機である、しばらくさうしよう。
△昨夜、樹明君と立ち寄つたおぢさんのところで、血書の話を聞いて、みんな微苦笑したことであつた、血書もかう流行的になつてはインチキがあるのも当然だらう、黒い心を赤い血で書いて[#「黒い心を赤い血で書いて」に傍点]、それがどうしたといふのだらう、裃をきてゐても不真面目があり、どてらをきてゐても真摯がある、シンケンらしいウソ[#「シンケンらしいウソ」に傍点]を呪ふ。
けふもいちにち、ものをいふこともなかつた、たゞ執筆し読書した、そして月のよろしさをよろこびながら寝た。
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 更けゆけば咳入るばかり(述懐)
・干大根が月のひかりのとゞくところ
 月の暈、春遠くない枝に枝
・月が暈きた餅持つてきてくれた(樹明君に)
 別れよう月の輪を見あげ
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 二月五日[#「二月五日」に二重傍線]

春近しの感がある、霜のとけるほどあたゝかい。
そこらあたりを漫歩する、漫[#「漫」に傍点]はそゞろ[#「そゞろ」に傍点]と訓む、目的意識のないことを意味する、漫談、漫読、漫想、漫生!
無為而化――そんな一日であつた、たゞ一事の記すべきがあつた、珍客来、Hのおばさんとふうちやんとが立ち寄つたのである、私は彼女等の好奇心と好意とに対して微苦笑するより外はなかつた。
義庵老師から、禅の生活と大乗禅とを六冊送つて下さつた、深謝感佩。
ぬくう暮れて、月が暈をかぶつてゐる、寝るより外なく、寝て読書してゐると、樹明君来庵、大村君を伴つて、そして餅を持つて。
その餅を焼いて食べながら話す、句の話、やつぱり句の話が一等よろしい。
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・いかりおさへてさむいぬかるみもどつてきたか(自嘲)
 こやしあたへてしみ/″\ながめるほうれんさうで
・掃きよせ掃きよせた落葉から水仙の芽(再録)
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 二月六日[#「二月六日」に二重傍線]

けさはまつたく早すぎた、御飯、御勤、何もかもすんでしまつても、まだ/\なか/\明けない、禅書を読んだ。
ぬくうてなごやかだつたが、だん/\つめたくなり、小雪ちりはじめた、畑仕事の手が寒かつた、そしてとう/\雨になつた。
今日も行乞には出かけられさうにもない、餅でも食べてをるか!
夕方、樹明君から来状、今夜は宿直だから、夕飯と晩酌とを御馳走しようとの事、大に喜んで出かける、飲む食べる話す、そして別れてHおばさんのところで、一品の二本、それか
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