した。
大山さんから稿料落手、それだけ飲んでしまふ。
樹明君違約して不参、それが却つてよかつた。
焼酎よ、お前と永劫に縁をきる。
文字通り無一文。
△人間を離れて人間はゐない、彼、彼女、等々。
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さんざ労れて春めいた雨となつた
・水のいろも春めいたいもりいつぴき
霜、水仙は折れて咲いてゐる
[#ここで字下げ終わり]
二月廿二日[#「二月廿二日」に二重傍線]
予期した雨となつた、そして晴れた。
酒があるから酒を飲んだ、私はまだひとりの酒[#「ひとりの酒」に傍点]はほんとうに飲めない、酒は親しい人々といつしよに飲みたい。
樹明君がハムを持つてきてくれた、春らしい情景である。
二月廿三日[#「二月廿三日」に二重傍線]
春、春、春がきました。
二三日なまけた、けふからしつかりはたらかう。
三八九の原稿を書きつゞける。
句もないほど、平穏な日だつた。
酒はないけれど、米があり野菜がある、水仙がほのかに匂ふ。
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・こゝにふきのとうひらいてゐる
・あるけばふきのとう(追加)
・やつとふきのとう
・藪椿、号外のベルがやつてくる
・春がきた山から大きな木をはこぶ
[#ここで字下げ終わり]
二月廿四日[#「二月廿四日」に二重傍線]
また雨だが、ぬくい雨だ、すつかり春めいた雨だ、油虫がどこからかのこ/\はいだしてきたほどだつた、午後は風がでゝ、だん/\晴れてきた。
三八九の仕事、ハムはうまいな、文旦飴もうまいな。
二月廿五日[#「二月廿五日」に二重傍線]
未明、樹明来、宇部へ出張して、飲み過ぎて、三田尻まで乗り越して、やうやくこゝまで来たといふ、いかにも樹明らしい、ふたりいつしよにしばらく寝る。
明けてから、お茶を飲んで、さよなら、それから私は飯だが、もうシヨウユもスミもタバコもコメもなくなつた、まだハムとアメとが残つてゐる!
村のデパートで、サケ一杯とタバコ一袋とを借りた。
国際聯盟決裂の日、日本よ強くなれ、アジアは先づアジア人のアジアでなければならない。
三八九、三八九、三八九はメシのタネだ、ああああ、ああ。
樹明君が夕方再び来庵、豚のお土産を持つて、――一杯あげたいとは思へども。――
夜は三八九原稿を書く、あひまあひまに読みちらす。
今日は自然の事実を一つ発見した、水仙も向日葵のやうに太陽に向いて咲くといふこと
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