に感心々々。
[#ここから2字下げ]
・じゆうぶんやすんだ眼があいて春
・枯木はおだやかな朝月である
・これが新国道で、あれはやきいもや(柳井田所見)
・みんな働らく雲雀のうた
・水音の藪椿もう落ちてゐる
・枯草の日向の脚がぽこ/\あるく
・咲いてここにも梅の木があつた
・朝月夜、竹藪がさむうゆれだした
・鳴るは楢の葉で朝月夜
・朝月はうすれつつ竹の葉のなかへ
・つめたく風が、私もおちつけない
・枯れつくしてぺんぺん草の花
・つゝましく酔うてゐる庵は二十日月
・やまみちのきはまればわいてゐる水(改作再録)
[#ここで字下げ終わり]

 二月十六日[#「二月十六日」に二重傍線]

けさも早かつた、四時頃だつたらう、昨夜の今朝だから、感服しても差支ない。
朝の読書はほんとうによい、碧巌第二則、至道無難、趙州和尚の唇皮禅に敬服する。
△そのものになりきる、――これこれ、これだ。
午前は雪もよひで寒かつたが、午後は晴れて暖かだつた、そこで、樹明君と会して、鰯で一杯やらうといふのだ。
焼酎即死! と思ひながら、どうしても縁が切れない。
滓を飲んで旦浦時代を追憶した、滓なんて飲む人があるからおもしろいと、あの時代は考へてゐたが、今の私はその滓でさへろく[#「ろく」に傍点]/\飲めないではないか(現に一昨日は十銭しかないので、わざ/\新町まで出かけて滓を飲んで来たやうなみじめさだ)。
焼酎を借りる、鰯を借りる、さて酒はどこから借りださうか、窮すれば通ず、要求あれば供給あり、何とかなるだらう(醤油はF家から借りた)。
夕づつかけて樹明来、やうやく一升捻出して飲んだ、よい酒だつた、うまい酒だつた、涙ぐましい酒だつたともいへよう、ハムの一きれにもまこと[#「まこと」に傍点]があつた。
よう寝た、ぐつすりと夢も見ないねむりだつた。
△私は、すべての音響を声と観じる[#「声と観じる」に傍点]やうになつた、音が心にとけいるとき、心が音をとかすとき、それは音でなくして声である、その新らしい声を聴き洩らすな。
[#ここから2字下げ]
・梅と椿とさうして水が流れてゐる
・庚申塚や左は街へ下る石ころ
・あさぐもりの垣根の花をぬすまうとする
 太陽、生きものが生きものを殺す
・寝覚しめやかな声はあたゝかい雨
・ハムは春らしい香をかみしめる(樹明君に)
[#ここで字下げ終わり]

 二月十七日[#「二月
前へ 次へ
全43ページ中30ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング