・右は酒屋へみちびくみちで枯すゝき
・いつも尿するあとが霜ばしら
・何だか死にさうな遠山の雪
 障子に冬日影の、郵便屋さんを待つてゐる
・ようできたちしやの葉や霜のふりざま
・ついそこまでみそつちよがきてゐるくもり
 倒れさうな垣もそのまゝ雪のふる
・地下足袋おもたく山の土つけてきてゐる
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 二月一日[#「二月一日」に二重傍線]

雪もよひ、ひとりをたのしむ[#「ひとりをたのしむ」に傍点]。
△年はとつてもよい、年よりにはなりたくない(こんな意味の言葉をゲーテが吐いたさうだ)、私は年こそとつたが、まだ/\年寄にはなつてゐないつもりだ!
△本来の愚を守つて愚に徹す、愚に生きる外なし、愚を活かす外なし。
依頼心が多い、――この言葉ほど私の心を鋭く刺したものは近来になかつた、ああ。
△自然即入。
△生も死も去来も、それはすべていのち[#「いのち」に傍点]だ。有無にとらはれて、いのちを別扱にするなかれ。
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 また雪となり、大根もらつた
 くもりおもくて竹の葉のゆれてな[#「な」に「マヽ」の注記]る
・影が水を渡る
 影もならんでふむ土の凍てゝゐる
・夕月があつて春ちかい枯枝
・ゆふやみのうらみちからうらみちへ雪どけの
[#ここで字下げ終わり]

 二月二日[#「二月二日」に二重傍線]

早寝の早起だつた、御飯をたべて御勤をすましてもまだ明けなかつた、狐が鳴いてサイレンが鳴つた、寒い山が微笑んだ。
久しぶりに入浴、そして買物。
前のおばさんから大根を貰つた、山頭火お手づくりのものより、よく出来てゐる、干大根にでもしてをかう。
△善悪を考へる前に愛憎がある、正邪を判ずるに先つ[#「つ」に「マヽ」の注記]て純不純を思ふ。
若し私の生活――といふよりも私の句によいところがあるならば、それはマネがないからだ、コシラヱモノでないからだ、ウソがすくないからだ、ムリがないからだ。

 二月三日[#「二月三日」に二重傍線] 節分。

冷静にして明朗、つめたいけれどゆつたりしてゐる。
昼酒を味ふた、悠々独酌、二合で腹いつぱい心いつぱいになつた、これ以上は貪る[#「貪る」に傍点]のだ。
△型といふものは出来るのが本当、そしてそれを破るのが本当(これはパラドツクスめくが)。
△麦飯の嫌な人には、麦飯が麦ばかりに見えるだらう。
△無駄のある生活人に人
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