しつゝある自分の姿を思ひだすと、それは苦笑に値するばかりだ。
山口は私にとつて第三故郷[#「第三故郷」に傍点]ともいふべき土地、やつぱりなつかしいうれしい気持をそゝられた、山のよさをはつきり知つた。
ゆつくりして湯田温泉に一浴したかつたが、その余裕も持たなかつた、また近いうちに出かけやうと思ふ。
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・わらやしづくするあかるいあめの
・のびあがりのびあがり大根大根
・夕焼ける木の実とし落ちたどんぐり
・こんなところに水仙の芽が、お正月
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昨日の山口行は私にいろ/\の事を考へさせたが、途上、花柳菜を見て宮崎を思ひ、葉牡丹を見て熊本を思つた。
△抗議二つ、その一は、独居をうらやむなかれ、その二は、古人の様式に今人をあてはめるなかれ。
さみしくなれば、畑を見てまはる、家の周囲をぐる/\まはる、それでもなぐさめられる。
いつのまにやら、干柿をすつかり食べつくした、こゝに改めてF家のおばさんにお礼を申上げなければなるまい、こんなところにも人間の推移があるからおもしろい。
夜、突然、敬坊来庵、酒と汽車弁当とを買つてくる、敬坊は何といふなつかしい人間だらう
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