を送つてきた、ありがたし、かたじけなし。
寒かつたが上天気だつた、私だけには。
樹明君が夕方来て、入浴(十日ぶりだつた)して着物を改めてゐる私を見て、眼をみはつた、が、紳士のやうだは[#「だは」に「マヽ」の注記]いつてくれなかつた。

 十一月三十日

寒い、水仕舞する手が冷たい、もう足袋なしではゐられない、いよ/\本格的に冬となつた。
まことに好いお天気である、山を歩きまはる、どてらをきて、層雲をもつて、――とんぼまでうれしがつてゐる、山笑ふは春の季題だが、秋の山だつてほゝゑんでゐる。
ほつといた音信を書く、駅のポストまで出かける。
私は柿を食べるよりも眼で味ふ、私は不幸にして、まだ木の実の味はひを解してゐ[#「ゐ」に「マヽ」の注記]らない。
畑の野菜が食べきれないほどになつた、ちしや、ほうれんさう、しんぎくのうまさよ。
夕方から約束通りに学校の宿直室で樹明君と飲んだ、飲みすぎた、ソーセージはうまかつた、理髪して貰つてうれしかつた。
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・あしもとのりんだう一つ二つひらく
 からだいつぱい陽をあびとんぼに好かれる
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自省自戒の言葉二三。

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