れないので、入浴と出かける、二銭五厘の遣悶策だ、あたゝかい湯に浸り、髯を剃つたら、だいぶ気軽になつた。
四日ぶりに街へ出かけたのだが、人間は人間の中へはいりたがる、それが自然でもある、私にだつてそれが本当だらう。
川ぞひのみぞそば[#「みぞそば」に傍点]のうつくしさ、私はしばし見惚れた、此地方のそれは特別にうつくしいと思ふ。
歩けばきつと蛇の二三匹におびやかされる、けふもまた蛙が喰ひつかれて断末魔の悲鳴をあげてゐた、いたましいとは思ふけれど、私はどうすることも出来ない、蛙よ、汝は汝の運命のつたなきを泣け!(芭蕉が大井川のほとりで秋風の捨児に与へたと同一の語句だ)
夕飯も茶漬でぼそ/\だつた。
晩課諷経は普門品にする、偈頌の後半部はまつたくうれしい、身心がのび/\するやうだつた。
夜は読んだり書いたり、さて寝ようかなと思つてゐるところへ、樹明君の足音が聞える、久振だな、といつても四日振だ、それほど二人はしげ/\逢つてゐた、逢はずにはゐられないのだ。
あれこれ話しつゞけてゐたが、いよ/\農繁期に入つたのでまた暫らく逢へまいといふので、一杯やることに相談一決(いつでも異議のあつたことがない!
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