人で近隣の四五軒を挨拶して廻る、手土産として樹明兄がカルピスをあげる。
これで、私も変則ながら、矢足の住人となつた訳だ。
何といつても、樹明兄の知人が多く、敬治坊の親戚が多いのだから、私も肩身広く落ちつけるといふものだ。
夕方、三人で散歩する、後の山はよかつた、庵の跡、宮の跡、萩が咲きみだれてゐる、夕日がおだやかにしんみりと照らす、物と物、心と心とが融け合ふやうだ。
夜は、さらに水哉、冬村二君も来庵、かしわでうんと飲んだ、酔ふた酔ふた、みんなが去つてゆくのが癪に障るほど酔ふた(私は時々、親しい人々に対しては駄々児気分を発散するらしい)。
今日の忘れられない事は、米を頂戴した事、無花果を食べた事、酒のよかつた事(昨日から今日へかけてよく飲んでよく食べたものだ、酒五升、鶏肉五百目、その他沢山である)。
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・つく/\ぼうしつく/\ぼうしと鳴いて去る
・咲いてこぼれて萩である
・秋ふかう水音がきこえてくる
  農学校即事
 鵞鳥よ首のべて何を考へてる
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 九月廿四日

晴れて独りだ。
咳で苦しむ、時々苦しむのが本当だ。
昨日のかしわの骨でスープを
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