ね)。
夕ぐれ、ばら/\と降つた、初時雨だらうか、まだ時雨が本質的でなかつた。
晩課諷経の最中に誰だか来たけはいを感じたが、そのまゝ続ける、すんでから出てみると、農学校の給仕君が、樹明君からの贈物だといつて、木炭一俵を持参してゐる、かたじけなく頂戴、時雨のなかを帰つてゆく彼に頭をさげた。
夜は十日会の月次例会、集まつたものは樹明、冬村二君に過ぎつ[#「ぎつ」に「マヽ」の注記]たが、しんみりとした、よい会合だつた、ことに折からの時雨がよかつた、時雨らしい音だつた、樹明君の即吟に、
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三人《ミタリ》のしぐれとなつた晩で
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といふ一句があつた、まことにみたり[#「みたり」に傍点]のすべてであつた、別れる前にあまり腹が空いたので(といつて食べるものを売るやうな店は近くにないので)白粥[#「白粥」に傍点]を煮て、みんなで食べた、おいしかつた、とろ/\するやうな味はひだつた、散会したのは十二時近く、もうその時は十一日の月がくわう/\とかゞやいてゐた。
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・落ちついてどちら眺めても柿ばかり
・ゆふべうごくは自分の影か
月夜のわが庵
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