ながら古くさくなつたぞ、破被布を羽織つて、茶人帽をいたゞいて火鉢の縁を撫でゝゐては、あまりに宗匠らしい、咄。
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 二葉となりお汁の実となり(大根の芽生に)
 日本晴れの洗濯ですぐ乾く
・萩もをはりの、藤の実は垂れ
・くみあげる水がふかい秋となつてきた
 ふるさとのそばのあしいよ/\あかし
 さみしさがけふも墓場をあるかせる
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さみしいから(或る日はアルコールでまぎらすけれど)あてもなくあちこちあるきまはる、藁麦畑、藷畑、墓場、大根畑、家、人。
このあたりは柿も多いが椿も多い、前のF家の生垣は椿である、ところ/″\に大椿がある、実がなつてゐる、家に乾してもあるだらう。
井戸の水が毎朝めつきり減つてゆく、釣瓶の綱をつないでもまたつないでも短かくなる、こゝにも深みゆく秋の表現がある。
だん/\食べるものがなくなつてゆく、――もう醤油も味噌も酢もなくなつたが、――まだ塩がある(米だけは、ありがたいことは大丈夫だ、樹明菩薩が控へておいでだから!)。
掃くよりも落ちるが早い柿の葉だ、掃いたところへ散つた葉はわるくない(私もだいぶ神経質でなくなつたやうだ
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