十目  十三銭    一、菜葉二把     四銭
一、焼酎一合    十二銭    一、ノート一冊([#ここから割り注]日記用[#ここで割り注終わり])八銭
   合計金 八十六銭也
(財布にまだ一円ばかり残つてゐたが、例のワヤで、酒や豆腐や松茸になつてしまつた)
[#ここで字下げ終わり]
とにかく、近頃の私は飲みすぎる、遊びすぎる、生死の一大事を忘れてはゐないけれど、やゝすてばち気分[#「すてばち気分」に傍点]に堕してゐることを痛感する、こんなことで何が庵居だ、何の句作だぞといひたくなる、清算、精進、一念一路の真実[#「一念一路の真実」に傍点]に生きよ。
私は柿を愛する、実よりも樹を、――あの武骨な枝、野人的な葉、そこには近代的なものはないが、それだけ日本的だ、日本的なもの以外には何物もない(もつとも近来だいぶ改良されてはゐるが)。
小さな犯罪、それを私は敢てした、裏畑の茗荷の子を盗んだのである、忘れられた茗荷の子だ、不運なその子は私の胃の腑で成仏しなければならなかつた。
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  追加二句
・三日月のどこやら子供の声がある
・夜なべの音の月かげうつる
[#ここで字
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