、五銭 豆腐二丁
合計金 七十七銭也(残存金二十三銭)
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菜葉を漬けた、重石をたづねてあるいたが。
一杯やつてゐるところへ、樹明兄が一升さげて来た、山村の饗宴がはじまる、おしまひには街へまで延長する、そしてとう/\わや[#「わや」に傍点]になつてしまつた。
かういふ風では罰があたる――と考へてゐたが、果して罰があたつた、一切我今皆懺悔、しつかりしろ。
十月二日
近頃にない熟睡だつた。
晴、昨夜の残酒を傾ける。
省みて愧ぢない生活[#「省みて愧ぢない生活」に傍点]。
郵便配達夫が柿を御馳走してくれといふ、私の柿ではないけれど、さあさあ好きなだけ食べなさい、食べろといはれる私の代りに、うまいかね。
萩が咲きこぼれてゐる、煙がうす/\のぼつてゐる。
終日籠居、孤独と沈黙と、そして閑寂と沈潜との一日だつた。
家の周囲の雑草が刈られた、萩も薄もみんな。
こうろぎを聴いてゐると、ずゐぶん上手下手がある、濁つたのがだん/\澄んでくるのが解る、虫の声もなか/\複雑だ。
咳嗽がひどくて苦しんだ、しかしそれが同時に私を自堕落から救ふのも事実である。
十月三日
晴、時々曇る、私の身心のやうに。
百舌鳥が啼く、その声もだいぶ鋭くなつたやうだ。
火吹竹[#「火吹竹」に傍点]をこしらへる、何といふ時代後れ!
後の山路を歩く、萩が多い。
大根の芽生はうれしい、自分で耕して自分で播いた、それが芽を吹いた、ありがたいやうな、すまないやうな気持。
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・ゆふべのさみしさはまた畑を打つ
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十月四日
咳入つて覚める、声が嗄れて胸の奥が鳴る、罰は甘んじて受けなければならない。
出勤前の樹明兄、私の安否を心配して一寸来庵、その温情かたじけなし。
今日は殺生デー[#「殺生デー」に傍点]ともいひたい日だつた、早朝、座敷で百足を殺した、掃除の時に蝶々を殺した、井戸からイモリをくみあげた、また、蛙をとびこませた、庭で蜂を殺した、カマキリを殺した、畠では蚯蚓、※[#「虫+車」、第3水準1−91−55]、ケラ、を殺した。……
殺さないまでも、彼等の夢を驚かして気の毒だつた、人間が土を耕やすのは、ケラにとつては安眠妨害、蚯蚓にとつては家宅侵入だらう、人間は時として虫にも劣つてゐる。
帰宅前の樹明兄、先夜写していたゞいた写真を持つて来庵、よく写つてゐる、あまりに私らしい、同時にあまりに私らしくない写真でもあつたが、とにかく、禅坊主としての私、庵主としての私は出てゐる、感謝々々。
藁麦の花はいゝ、声が嗄れて話すことがむつかしくなつた、何だかさみしくなる。
さういふ私を気の毒と思つてだらう、樹明兄が乏しい弗入から五十銭玉一つをおいていつた、ありがたしとばかり、すぐ駅通りまで出かけて、焼酎と豆腐とを買うて戻つて、ゆつくり、しんみり、やりました、うまかつた、ありがたかつた、酔うた、酔うた、いつとなく前後不覚になつてしまつた。
改めて御礼をいふ、南無樹明如来、焼酎大明神、豆腐菩薩。……
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・三日月、おとうふ買うてもどる
・新道まつすぐにして三日月
・夜《ヨル》へ咳入る(改作)
わたしがはいればてふてふもはいる庵の昼
・ひとりで酔へばこうろぎこうろぎ
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十月五日
めづらしく朝寝した、もう六時に近かつた、それほど私は心地よく酔うたのである。
柿の落葉はわるくない、掃いてゐるうちに、すぐまた落ちる、それがかへつてよろしい、掃き寄せて、その樹、その実を仰ぐ気持はうれしい。
前の家から柿を貰つた、さつそく剥いだ(私はあまり木の実を食べないが、柿だけは以前から食べる)、いはゆる山手柿[#「山手柿」に傍点]を味つた、うまかつた、私は柿を通して木の実が好きになるだらうと思ふ。
柿は枝振も木の葉も実も日本的[#「日本的」に傍点]だ(茶の木が花が日本的であるやうに)。
この秋日和! もつたいないほどである。
達麿忌である、廓然無聖、冷暖自知。
樹明兄から約束の通りに寄贈二品、一は白米、これは胃腸薬として、そして他は砂糖、これは風邪薬として。
ウソでもない、ジヨウダンでもない、ホントウだ、私にはもう食べるものがなくなつてゐたのだ、風邪をひいて咳が出て咽喉がいたいのに砂糖湯さへ飲めなかつたのだ。
だから、今日の樹明はメシヤだつた!
何と久しぶりに、そして沢山、甘い物を飲んだことよ。
寥平兄からなつかしいたよりがあつた、熊本はなつかしくもいやな土地となつた、私にとつては。
湯屋でゆつくり、そして酒屋でいつぱい、それから栄山公園の招魂祭へいつた、そこは小郡町唯一の遊覧地である、まづ可もなし不可もなしだらう。
ゆう/\としてぶら/\帰庵すると、樹明兄が待つてゐた、招魂祭で早引けだつ
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