をとつて寝た、読むに層雲(今月は早くて来月号が今日来た)があるのはありがたい。
いよ/\閉戸子となつた、そして時々自分をあさましいと思ふ、あさましい事を考へるから、そして行はないでもないから。
石蕗の花のよさを知つた、野に咲いてゐても、また、床に活けてあつても。
りんだうの花を一つ見つけた、さつそく仏前にそなへた。
柿の木を所有するものは、その実に囚へられて、柿のうつくしさを知らない、あはれむべし。
さみしさは心の底から湧く、環境のためでない、境遇のためでない、性格のためである、センチと笑はれても仕方がない。
ゆふべ、あんまりさみしいから柚子をもいだ、ゆかしい匂ひかな、柚子味噌をこしらへるつもりだつたけれど、めんどうくさくなつたのでやめた、それでもすこし慰められた。
苦があつて句はない、苦を観照するだけの余裕を持つて初めて句が出来る。
もう醤油がなくなつた(それを買ふことが出来れば問題はない)、まだ味噌がある、塩がある、菜葉もあれば塩魚もあるぢやないか。
寒いのに冬物がない、ふつと思ひついて、レーンコートを下に着込んだら、めつきりあたゝかくなつた、このコートは関東大震災の時にS君から貰つたそれである、今夜はまた、あの当時の事をおもひ、S君の温情を味はつた。
昼も夜も寝てばかり、それでも食べることは一人前以上だ、驚くべき食慾であり、大きすぎる胃の腑である、もつとも私たちのやうなルンペン乃至ルンペン生活をやつてきた人間が、食慾を失ひ、そして食べるものを食べなくなれば、もうお陀仏である、彼等(私たちとはいひきれないから)は食べることが即ち生きることだから[#「食べることが即ち生きることだから」に傍点]。――
十月廿八日
六時のサイレンが鳴つてから起きた、飯を炊き汁を煮る、そして食べてまた寝る、今日も動けさうにない。
孤独よろこぶべし――が、孤独あはれむべし[#「孤独あはれむべし」に傍点]――になつてしまつた。
井戸がいよ/\涸れてきた、濁つた水を澄まして使ふ、水を大切にせよ、水のありがたさを忘れるな、水のうまさを知つて[#「水のうまさを知つて」に傍点]、はじめて水の尊さが解る[#「はじめて水の尊さが解る」に傍点]。
秋日和、それはつめたさとぬくさとが飽和して、しんみりとおちつかせる、しづかで、おだやかで、すべてがしみ/″\として。
ぐずり/\して存らへてゐる、寝るでもなく、起きるでもなく、読むでもなく、考へるでもなく、――生きてゐるでもなく。――
あんまり気がめいりこむから、歩くともなく歩いた、捨てられた物を拾ふともなく拾ひつゝ(それはホントウのウソだ!)。
[#ここから2字下げ]
・ただ百舌鳥のするどさの柿落葉
・放つよりとんでゆく蜂の青い空
子供も蝗もいそがしい野良の日ざしかたむいて
・秋の野のほがらかさは尾をふつてくる犬
たそがれる家のぐるりをめぐる
・空からもいで柚味噌すつた
・真昼あはたゞしいこうろぎの恋だ
・秋の夜のふかさは油虫の触角
秋の夜ふけてあそぶはあぶらむし
障子たゝくは秋の夜の虫
・秋ふかうなる井戸水涸れてしまつた
こゝろつめたくくみあげた水は濁つて
□
・みんないつしよに柿をもぎつつ柿をたべつつ
[#ここで字下げ終わり]
十月廿九日
けふもよいお天気で。
一雨ほしい、畑のものがいら/\してゐる。
憂欝、倦怠、焦燥。――
掃く、拭く、そして身心を清める。
とう/\水までなくなつた、米もおぼつかなくなつた。
待人来るか来らぬか、敬坊は、樹明老は。――
けふから貰ひ水、F家へいつたら誰もゐない、四季咲の牡丹がかゞやいてゐた、無断でバケツチ[#「チ」に「マヽ」の注記]に一杯、よい水を貰うて戻る(倹約すれば一日バケツ一杯の水で事足るのだから幸である)。
待人はなか/\来ない、出たり入つたり、歩いたり佇んだり、さても待遠いことではある、待たれる身にはなつても待つ身にはなるなといふ、ほんに待つ身につらい落葉かなだ!
もう諦めて、コツ/\柚子の皮を刻んでゐたら、さうらうとして樹明老がやつて来た、病気といふものはおそろしい、あれほど元気な君が二三日の間にすつかり憔悴してしまつてゐる、それでも約を履んで来てくれたとは――なぜ敬坊は来ないのか、すこし腹が立つた――ありがたい/\、うれしい/\、しかも、生きの飯鮹をさへ持つてきてくれたのだ、この鮹まさに千両!
御馳走は何もない、橙湯をあげる、そして何かと話して、たそがれの草道で別れた、お互にたつしやでうまい酒をのむやうになりたい、至祷々々。
茶の花――石蕗の花
観音経――修證義
飯鮹は、煮るに酒も醤油もないから茄でゝをく、此地方の地口に、「ようもいひだこ、すみそであがれ」といふのがある、敬坊が来たら、酢味噌で食べさせて、うんと不平をいつてやらう。
今夜は
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