に行く
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例によつて街を飲みつ[#「つ」に「マヽ」の注記]いたが、三人とも無事に帰庵、三人が枕をならべていつしよに寝てゐるのは珍妙だつた。
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・茶の花や身にちかく冬のきてゐる
・落葉して大空の柚子のありどころ
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 十二月四日

お誂向の雨、迎酒なかるべからずで、また街まで酒買ひに、……それからワヤ、大ワヤ、……昨夜のメチヤに今日はクチヤを加へた!

 十二月五日

昨日のワヤのつゞき、ムチヤクチヤだ。
敬坊をおきざりにして帰庵する、そこらを片づけてすこしおちつく、ぐつすり寝た。

 十二月六日

鉄筆を握りつゞける。
樹明来、家庭の空気が険悪ださうな、あたりまへだ、梅川忠兵衛のやうな場面を演じた罰だ、おとなしくあやまつて、しばらく謹慎すべし、あなかしこ。
風がふく、いやに身にしみる風だ。

 十二月七日

終日、三八九の仕事。
夜おそく樹明君が来てお土産の新聞包をひろげた、巻鮨、柿、ザボン、焼魚、それは或る家によばれて貰つたのだといふ、酒はないがおいしかつた。
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・住みなれて茶の花のひらいてはちる
・冬日の葉からとべばとべる虫
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 十二月八日

しぐれたり照つたり、何だか小雪でもふりさう。
やつと三八九出来、すぐ発送したいのだが、郵便料がない、それでもまあこれで一安心、重荷をおろしたやうな心持。
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冬は濁り井のなぐさむすべもなくて
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これは実感そのまゝだ、濁り水を常用してゐるせいか、先日来腹工合が妙である。
一週間ぶりに入浴、さつぱりして夜食は白粥。
強ゐられた善人はみじめだ、強ゐられた貞婦、強ゐられた高僧。
△人間は買ひかぶられるよりも見さげられた方がよい。
△ムリ[#「ムリ」に白三角傍点]のない生活、ムラ[#「ムラ」に白三角傍点]のない生活、それは必ずしもムダ[#「ムダ」に白三角傍点]のない生活ではないが。
もう凩だ、冬雨だ。
樹明君よい御機嫌でお土産持参、有難く頂戴、それは醤油一升罎、お正月までは大丈夫だ。

 十二月九日

晴れ/″\とした、自然も人間も。
昨日、発行届を出すのに、内務大臣の名を忘れてゐた、中橋か、山本か、まゝよとばかり中橋にしたら、山本だつた。
何もかも忘れるとよいのに、自分自
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