供へ奉つた。
銀杏かゞやかに、山茶花はさみしく。
このあたりには雀がゐない、どうした訳だらう、私は雀に親しみを持つてゐる。
裏を歩いたついでに拾うてきた枯枝で、ゆふべの粥がうまく出来た、何でもない事だけれど、ありがたい事である。
日ごろはつゝましく、あまりにつゝましく、そして飲めばいつも飲みすぎる、――これも性であり命である、一円をくづして費ふ人もあれば、そのまゝ費ひ果す人もある。
業報は受けなければならない、それは免かれることの出来ないものである、しかし業報をいかに[#「いかに」に傍点]受けるかはその人の意志にある、そして生死や禍福や、すべてを味到することが出来る力は信念にのみある。
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 もう穴に入るまへの蛇で日向ぼこ
・ほがらかにして親豚仔豚
・夕日の、ひつそりと落葉する木の
・音がして落ちるは柿の葉で
・あれは木の実の声です
・夜はしぼむ花いけてひとりぐらし
[#ここで字下げ終わり]
夜に入つてから樹明君来庵、渋茶をすゝりながらつゝましく話して別れた、月も林のかなたに、汽車の響がもうだいぶ更けたらしい調子になつてゐた。
アルボースせつけんのきゝめが意外にてきめんなのに驚かされた、まだ二回しか使はないが、それでも頭部のかゆがりがかゆる[#「る」に「マヽ」の注記]くなくなつた、私が此頃とりわけいら/\している源因の一つは、このかゆがりがかゆくてかゆくて、かけばいたむし、かかずにはゐられないし、それこそ痛し痒しの苦しみだが、そのかゆがりにあると思ふ、しかし痒いところを掻く時の気持は何ともいへない快さである。

 十一月六日

けさも朝寝、お寺の鐘を床の中で聴いた、空はどんより曇つてゐるが私の心は重くない。
妙な、珍らしい夢を見た、Sさんが訪ねてきたのである、そしてさらにKさんも訪ねてきたのである、そこへ父があらはれる、彼の彼女があらはれる、あの懐かしくてならない老祖母までがあらはれてくれたのであつた。……
ひたきがきて、そこらで啼いてゐる、すぐ出て見たけれど、枝から枝へうつるらしい姿は眼に入らない、やがてどこかへ飛んでいつてしまつた。
雀がゐないのはまことにさびしい、樹明君の説では、このあたりは藁屋ばかりで巣がかけられないからだらうとの事、さうかも知れない、では私が一つ雀の宿をこしらへてあげやうか。
はらみこうろぎは腹がおもくてとべないので、よ
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