不機嫌だつた、私は内心、気の毒やら申訳ないやらで恐縮したことである。
関門日々新聞の九星欄を見ると、――一白の人、紅葉の美も凋落し葉を振ひ落せし如き日――とある、これではたまらない、何とかならないものかな、もつとも、私はいつも裸木だが!
山の野菊(嫁菜の類)、龍胆がうつくしかつた、ひたゝきもめづらしく可愛かつた、この小鳥を見たのは何年ぶりだらう、山柿や櫨紅葉のよいことはいふまでもない。
りんだうを持つてかへつて活けた、山の花として満点。
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・みんなもがれてこの柿の木は落葉するばかり
・この山奥にも田があり蝗があそんでゐる
・りんだうはつゝましく蔓草のからみつき
・見はるかす野や街や雲かげのうつりゆくを
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十一月三日
天地玲瓏として身心清明、菊花節。
ほんとうによいたよりがあつた、同時にそれは恥づかしい(受取人の私には)たよりでもあつた。
句集を寄贈発送する、ほがらか/\。
樹明君来庵、ひさしぶりに飲んだ、酔うて歩いた、歩いてまた飲んだ、別れてから少ワヤ、おそくかへつてきてお茶漬をたべる、独身者は気軽でもあればみじめでもある。
葉が落ちる、柿、枇杷、棗。――
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・秋はほがらかな日かげ、もう郵便がくるころ
・みほとけはひとすぢのお線香まつすぐ
・落葉ふる奥ふかくみほとけを見る
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十一月五日[#「十一月五日」はママ]
今日一日は殆んど寝て暮らした、もつたいないことである。
昨夜はやつぱり飲みすぎ歩きすぎだつた、しかし脱線[#「脱線」に傍点]ではなかつた、混線[#「混線」に傍点]程度にとゞまつた。
それでも労れた、何しろ半月ぶりだつたから――もつとも時々あのぐらゐの酒と乱歩とがないと、生存してゐられない。
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寝てをれば花瓶の花ひらき
・今日の落葉は落ちたまゝにしておかう
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十一月六日[#「十一月六日」はママ]
朝寝した、晴れてゐる、元気回復、何でもやつてこい!
敬坊から来信、「松」十一月号が来る。
落葉を掃きつゝ、身も心ものびやかに、大空を仰ぎつゝ。
何となく人の待たれる日、といつて誰も来ないけれど。
正午のサイレンをきいてから湯屋へ、かへりみち、墓場の黄菊(これがほんとうの野菊であると思ふ)を無断頂戴して来て、仏前に
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