て一考察。
御飯のうまいのは釜底が焦げつくまで炊きあげた場合だ、いひかへればその一部が犠牲になつた時に全体が生きるのである、こゝにも浮世哲学の一節を読む。
樹明君、私のために小遣銭を捻出して持つてきてくれた、そして一升飲んだ、地主家主のJさんもいつしよに。
それからがいけなかつた、――ワヤになつてしまつた、カフヱーからカフヱーへと泳ぎまはつた――それでも帰ることは帰つた、こけつまろびつ、向脛をすりむいだり、被布を裂いたり、鼻緒を切らしたりして。――
十月十三日
秋晴、昨夜のたゝりでぼんやりしてゐる。
珍客来、川棚温泉のKさんが訪ねてきた、彼は好きな男だ、姿も心持も(彼は子供のやうに熟柿をよろこんだ)。
いつしよに街へ出た、別れてから、買物、入浴、一杯ひつかける、そしてそれからがまたいけなかつた、Kさんをひつぱりだして飲み歩いた、M屋からS軒へ。
さうらうとして戻つたら、樹明君がちやんと座つてゐる、午後一度来たといふ、そして夜中また来たのだといふ、話したり、食べたり、飲んだり(ちようど焼酎があつた)笑つたり、悔んだり、寝たり、起きたり、もう十二時だらうか。
ぐつすり寝る、夢まどかではないが、のんびりした一夜だつたよ。
どうもいけない、回光返照すべし、退いてもう一度、自分を、自分の周囲を見直すべし。
せつかくの浄財を不浄化しては罰があたるぢやないか、恥づべし、恥づべし。
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・何もない熟柿もいであげる
・壺のコスモスみんなひらいた
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今日の買物を附け添へて置かう、こんなにつゝましくして、そしてあんなにやりつぱなしだから助からない!
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一、 七銭 赤味噌 百目 一、七銭 はぎ 五匁包
一、 六銭 醤油 二合 一、五銭 大根 三本
一、 二十銭 焼酎 二合 一、九銭 ハガキ 六枚
一、 七銭 バツト 一 一、十銭 並そば 二杯
〆金 七十一銭也
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十月十四日
曇、折角の豆名月が台なしになつてしまつた。
終日憂欝、畑の草をとつてごまかす、大根おろしはうまかつた、間引菜の味噌汁も。
ほうれんさうがほつ/\芽をふいてきた。
柿の葉がだいぶ赤らんできた。
J夫人が子供を連れて柿もぎに来た、子供はうるさい、柿の落葉よりも。
呉
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