てゐるのは――そしてそれが楽しみのすべてといつていゝが――朝は郵便、それから新聞、それから友人だ、今日はその三つがめぐまれた。
[#ここから2字下げ]
・人がゐてしぐれる柿をもいでゐた
・庵のぐるりの曼珠沙華すつかり枯れた
・つゆくさ実をもち落ちつかうとする
[#ここで字下げ終わり]
夜はまた粥を煮て食べた、私には粥がふさはしいらしい、その粥腹で、たまつた仕事をだいぶ片付けた。
これでまづ今日いちにちのをはり、あなかしこ/\。
横になると咳が出る、絶え入るばかりに咳き入るといふが、じつさいさうである、咳き入つてゐると、万象こんとんとして咳ばかりになる、しばらくして小康、外へ出て歩く、何とよい月だらう。
十月十二日
好晴、まことに秋空一碧だ。
急に右の胸がいたくなつた、風邪をひきそへて、あんまり咳をしたためらしい、だるいからすこし散策する(この程度の病気を持つてゐることは、私のためには却つて可いかも知れない)。
製材所の仕事を観る、よく切れる鋸だな。
或る友への消息に、――
[#ここから2字下げ]
……私もだん/\落ちついてきました、そして此頃は句作よりも畑作に身心をうちこんでをります、自分で耕した土へ自分で播いて、それがもう芽生えて、間引菜などはお汁の実としていたゞけるやうになりました、土に親しむ[#「土に親しむ」に傍点]、この言葉は古いけれど、古くして力ある意義を持つてゐると痛切に感じました。……
[#ここで字下げ終わり]
柚子のかをり(にほひ[#「にほひ」に傍点]でなくてかをり[#「かをり」に傍点]である)、そのかをりはほんとうによろし。
今日の御飯はよく出来た、これもほんとうにおいしい。
[#ここから2字下げ]
蓮を掘る泥まみれ泥をかいては
・秋のひかりの大鋸のようきれる
・近眼と老眼とこんがらがつて秋寒く
・芋の葉、それをちぎつてつゝんでくれる
・ゆふ空から柚子の一つをもぎとる
[#ここで字下げ終わり]
百舌鳥がしきり啼く、あの声に聴き入つて、死身の捨身になつたこともあつたが、今はどうだ! あゝ。
散歩してゐて、コスモスのうつくしさがハツキリ解つた、あの花は農家にふさはしい、或はこぢんまりとした借家にふさはしい、はかないけれどもしたしみのある花だ(茎もまた)。
昼寝した、ぐつすり寝たが、覚めて何物もなかつた。
アルコールについて、そしてニコチンについ
前へ
次へ
全46ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング