春風の蓑虫ひよいとのぞいた

ひよいとのぞいて蓑虫は鳴かない

もらうてもどるあたたかな水のこぼるるを

とんからとんから何織るうららか

ひなたはたのしく啼く鳥も蹄かぬ鳥も

身のまはりはほしいままなる草の咲く

草の青さよはだしでもどる

草は咲くがままのてふてふ

藪から鍋へ筍いつぽん

ならんで竹の子竹になりつつ

窓にしたしく竹の子竹になる明け暮れ

風の中おのれを責めつつ歩く

われをしみじみ風が出て来て考へさせる

雷をまぢかに覚めてかしこまる

がちやがちやがちやがちや鳴くよりほかない

誰を待つとてゆふべは萩のしきりにこぼれ

声はまさしく月夜はたらく人人だ

雨ふればふるほどに石蕗の花

播きをへるとよい雨になる山のいろ

そこはかとなくそこら木の葉のちるやうに

ゆふべなごやかな親蜘蛛子蜘蛛

しんじつおちつけない草のかれがれ

しぐるるやあるだけの御飯よう炊けた

焼場水たまり雲をうつして寒く

     死線 四句

死はひややかな空とほく雲のゆく

死をひしと唐辛まつかな

死のしづけさは晴れて葉のない木

そこに月を死のまへにおく

いつとなく机に塵が
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