放哉居士の作に和して

鴉啼いてわたしも一人

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生を明らめ死を明らむるは仏家一大事の因縁なり(修証義)
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生死の中の雪ふりしきる

木の葉散る歩きつめる

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昭和二年三年、或は山陽道、或は山陰道、或は四国九州をあてもなくさまよふ。
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踏みわける萩よすすきよ

この旅、果もない旅のつくつくぼうし

へうへうとして水を味ふ

落ちかかる月を観てゐるに一人

ひとりで蚊にくはれてゐる

投げだしてまだ陽のある脚

山の奥から繭負うて来た

笠にとんぼをとまらせてあるく

歩きつづける彼岸花咲きつづける

まつすぐな道でさみしい

だまつて今日の草鞋穿く

ほろほろ酔うて木の葉ふる

しぐるるや死なないでゐる

張りかへた障子のなかの一人

水に影ある旅人である

雪がふるふる雪見てをれば

しぐるるやしぐるる山へ歩み入る

食べるだけはいただいた雨となり

木の芽草の芽あるきつづける

生き残つたからだ掻いてゐる

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昭和四年も五年もまた歩きつづけるより外なかつた。あなたこ
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