草と虫とそして
種田山頭火

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)螫《さ》す

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)蜚※[#「虫+慮」、118−4]《あぶらむし》
−−

 いつからともなく、どこからともなく、秋が来た。ことしは秋も早足で来たらしい。

 昼はつくつくぼうし、夜はがちゃがちゃがうるさいほど鳴き立てていたが、それらもいつか遠ざかって、このごろはこおろぎの世界である。こおろぎの歌に松虫が調子をあわせる。百舌鳥の声、五位鷺の声、或る日は万歳万歳のさけびが聞える。夜になると、どこかのラジオがきれぎれに響く。

 柿の葉が秋の葉らしく色づいて落ちる。実も落ちる。その音があたりのしずかさをさらにしずかにする。
 蚊が、蠅がとても鋭くなった。声も立てないで触れるとすぐ螫《さ》す藪蚊、蠅は殆んどいないけれども、街へ出かけるときっと二三匹ついてくる。たまたま誰か来てくれると、意識しないお土産として連れてくる。彼等は蠅たたきを知っている。打とうとする手を感じていち
次へ
全5ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング