はやく逃げる。いのち短かい虫、死を前にして一生懸命なのだ。無理もないと思う。

 季節のうつりかわりに敏感なのは、植物では草、動物では虫、人間では独り者、旅人、貧乏人である(この点も、私は草や虫みたいな存在だ!)。

 蝗は群をなして飛びかい、田圃路は通れないほどの賑やかさである。これにひきかえて赤蛙はあくまで孤独だ。草から草へおどろくほど高く跳ぶ。
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一匹とんで赤蛙
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 蟻が行儀正しく最後の御奉公にいそしんでいる姿は、ときどき机の上を歩きまわったり寝床を襲うたりして困るけれど、それは私に反省と勤労を教えてくれる。
 憎むべきは油虫だ。庵裏空しうして食べる物がないからでもあろうが、何でもかでも舐めたがる。いつぞやも友達から借りた本の表紙を舐めつくして、私にお詫言葉の蘊蓄を傾けさせた。
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蜚※[#「虫+慮」、118−4]《あぶらむし》ほど又なく野鄙なるものはあらじ。譬へば露計りも愛矜《あいけう》なく、しかも身もちむさむさしたる出女の、油垢に汚れ朽ばみしゆふべの寝まきながら、発出《おきい》でたる心地ぞする。(風狂文章)

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