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 古人がすでに言いきっている。油虫よ、私ばかりではないぞ、怒るな憎むな。

 げんのしょうこという草は腹薬として重宝がられるが、何というつつましい草であろう。梅の花を小さくしたような赤い花は愛らしさそのものである。或る俳友が訪ねて来て、その草を見つけて、子供のために摘み採ったが、その姿はほほえましいものであった。
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げんのしようこのおのれひそかな花と咲く
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 萩がぼつぼつ咲き初めた。曼珠沙華も咲きだした。萩の花は塵と呼ばれているように、曼珠沙華のように、花としてはさまで美しくはないけれど、何となく捨てがたいところがある。私は萩を見るたびにいつも故人一翁君を思い出す。彼の名句――たまさかに人来て去ねば萩の花散る――は歳月を超えて私たちの胸を打つ。

 今日はあまりの好晴にそそのかされて近在を散歩した。そして苅萱を頂戴した。
 素朴な壺に抛げこまれた苅萱のみだれ、そこには日本的単純の深さが漂うている。何の奇もないところに量ることのできないものがある。
 露草の好ましさも忘れてはならない。まいあさ、碧瑠璃の空へ碧瑠璃の
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