赤い壺(三)
種田山頭火

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)齎《もた》らす

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き](「層雲」大正五年三月号)
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 物を弄ぶのはその物の真髄を知らないからである。理解は時として離反を齎《もた》らすけれど、断じて玩弄というような軽浮なものを招かない。

 鏡を持たない人は幸福である。その人は自分が最も美しいと信じきっている。私はそういう見すぼらしい幸福を観るにも堪えない。

 自己を愛するということは自己に侫《おも》ねることではない、自己に寛大であることではない。真に自己を愛するものは、自己に対して最も峻厳であり残酷でさえある。

 自分の罪を許すことの出来ない人は他の罪を許すことも出来ない。他の罪を責める人は、より多くの自分の罪を責める人でなければならないと同じ道理である。

 生存は悲痛なる事実である。その悲痛なる事実であることを理解することによって、そしてその悲痛なる事実の奥底まで沈潜することによってのみ堪え得られる事実である。

 妻があり子があり、友があり、財があり、恋があり酒
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