があって、尚お寂しいのは自分というものを持っていないからである。
張りきった心、しかも落ちついた心でありたい。何物をも拒まない、何物にも動かされない心でありたい。
蒔いた人は刈れ、蒔いた人のみ刈れ。蒔いた人の強さよ、刈る人の尊さよ。
自然に対して侫ねるなかれ。
自己を掘る人の前にはたった一つの道しかない。狭い険しい、ともすれば寂しさに泣かるる道しかない。
叱られて泣いた昨日があった。殴られて腹も立たない今日である。――悔なき明日が来なければならない。
外部の圧迫は内部の破綻を緊密にする。そこに人間性の痛切な一面がある。
死を恐れないのではない、死よりも恐ろしいものがあるからである。
肉を虐げることによって霊を慰める人のはかなさは!
霊肉合致とは霊が肉を征服することでなくして肉が霊のあらわれとなることである。
彼が堕落の悲しさよ、彼は真摯なるが故に堕落したのである。
骨肉のなつかしさ、骨肉のあさましさ。
犠牲という言葉のためにはあまりに多くの犠牲が払われた。
[#地付き](「層雲」大正五年三月号)
底本:「山頭火随筆集」講談社文芸文庫
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