つとなく眠った、夜もすがら渓声。
宵のうちはアルコールの力で熟睡するが、明け方には眼が覚めて、夜の長いこと長いこと、水音たえずして、そしてしずけさ、さびしさ、昨夜のにぎやかで、うるさかったのにくらべて、この寒さ、とにかく[#「とにかく」に傍点]、この二三日は今まで知らないものを知った[#「この二三日は今まで知らないものを知った」に傍点]。
十一月二十日 晴、好晴、行程六里、久万町、札所下、とみや。
やっと夜が明けはじめた、いちめんの霧である、寒い寒い、手足が冷える(さすがに土佐は温かく伊予は寒いと思う)、瀬の音が高い、霧がうすらぐにつれて前面の山のよさがあらわれる、すぐそばの桜紅葉がほろほろ散りしく、焼香読経、冥[#「冥」に「ママ」の注記]想黙祷。
そこへ村の信心老人――この堂の世話人らしい――が詣でで来て、何かと聞かされた、遍路にもいろいろあって、めったにはここに泊められないこと、お賽銭を盗んだり何かして困ること、幸にして私の正しさは認めて貰った。
寒いけれど(川風が吹くので)八時から一時間ばかり行乞(銭二十八銭、米四合、途中も行乞しつつ)、それから久万へ、成川の流れ、山々の雑
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