同室一人ふえる、若い易者だ、なかなかのリクツヤらしい。
――銭一銭米一合残っているだけだ!
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ひなたまぶしく飯ばかりの飯を
まぶしくしらみとりつくせない
老木倒れたるままのひかげ
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街のある日のあるところ
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ハイヒールで葱ぶらさげて只今おかへり
今日の太陽がまづ城のてつぺん
道べり腰をおろして知らない顔ばかり
旅のほこりをうちはらふ草のげつそり枯れた
旅の旅路の何となくいそぐ
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 十一月十四日 晴――曇、滞在。

寒くなつた、冬が近づいたなと思う、沈欝やりどころなし、澄太君からも緑平老からも、また無相さんからも、どうしてたよりがないのだろう、覚悟して――というよりも、あきらめて――ままよ一杯、また一杯。……
今日はよく辛棒[#「棒」に「ママ」の注記]した、七時――十一時、そしてまた十二時――二時、市内行乞、五十二銭の銭と八合の米を貰って帰って来た。
毎夜、御詠歌の稽古が熱心につづけられる、御詠歌というものはいろいろの派があるけれど、所詮はほろり[#「ほろり」に傍点]とさせられるところにそのいのち
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