早起早立、まっしぐらにいそぐ、第十八番恩山寺遥拝、第十九番立江寺拝登。
野良で野良働きの人々がお弁当を食べている、私も食べる、わがままをつつしむべし[#「わがままをつつしむべし」に傍点]。
飴玉をしゃぶりつついくつかの村を過ぎる、福井(鉄道の終点)というところで、一杯ひっかける、つかれがうすらいだ、山路になる、雑木山の今日この頃は美しい、鉦打で泊ろうと思ったけれど泊めてくれない、また歩きつづけて峠の下で泊めて貰う、まったくの山村だが、電話もあればラジオもある、宿は可もなし不可もなしだった、相客は老同行、話し合っているうちに同県人だったので、何となくなつかしかった、好感の持てるおじいさんだった。
今夜も風呂なし(昨夜も)、水で身体を拭いたが肌寒を感じた。

 十一月三日 晴、行程八里、牟岐、長尾屋。

老同行と同道して、いつもより早く出発した。
峠三里、平地みたいになだらかだったけれど、ずいぶん長い坂であった、話相手があるので退屈しなかった、老同行とは日和佐町の入口で別れた(おじいさん、どうぞお大切に)。
第二十三番薬王寺拝登、仏殿庫裡もがっちりしている、円山らしい、その山上からの眺望が
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