し、宿に米一升渡して、不足十二銭払ったら、剰すところ銭九銭米二合だけなり。
今日の功徳は米六合と銭六銭だった、よく食べよく寝た、終夜水声。
同行さんから、餅やら蜜柑やらお菜やら頂戴した、感謝々々。
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(十一月八日)
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木の実おちてゐる拾ふべし
あとになりさきになりおへんろさんのたれかれ
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(野食)
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秋あたたかく蠅も蚊もあつまつて
短日暮れかかる笈のおもさよ
脚のいたさも海は空は日本晴
秋もをはりの蠅となりはひあるく
仲がよくないぢいさんばあさん夜が長く
[#ここで字下げ終わり]
十一月九日 曇――雨、行程三里、和食松原、恵比須屋。
四時半起床、雲ってはいるが降ってはいない、助かった! という感じである、おばあさんが起きるまで日記をつける、散歩する、身心平静、近来にないおちつき、七時前出発、橋を二つ渡るとすぐ安芸町、午前中行乞、かなり長い街筋である、行乞しおえると雨になった、雨中を三里あまり歩いて和食町、教えられた宿――町はずれの、松林の中のゑびすやにおちつく、ほんによい宿であった、きれいでしんせつでしずかで、そしてまじめで、――名勝、和食の松原、名産、和食笠。
夕方、はだしで五丁も十丁も出かけて、一杯ひっかけて(何といううまさ!)、ずぶぬれになった、御苦労々々々。
晩食後、同宿の行商老人と共に宿の主人から轟神社の神事について聞かされた、どこでもたれでもお国自慢は旅の好話題というべしである。
今日は大降りだった、とある路傍のお宮で雨やどりしていると田舎のおかみさん二人もやってきた、その会話がおもしろい、言葉がよく解らないけれど、腰巻の話、おやじの話、息子の話。
今日の功徳はめずらしくも、銭二十八銭、米九合余。
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(夕食) (朝食)
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菜葉おひたし そうめん汁 米一升渡
そうめん いりこ 内五合は飯
梅ショウガ 梅干 不足金
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十三銭也
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(十一月九日)
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水音明けてくる長い橋をわたる
朝の橋をわたるより乞ひはじめる
朝のひかりただよへばうたふもの
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高知へ
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日に日に近うなる松原つづく
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十一月十日 晴、朝寒、行程八里、高知山西。
――よう降った、夜明けまで降りつづいたが、朝はからりと晴れわたって、星がさえざえと光っていた、――助かったと思う、幸福々々(宿もよかった、ほとんど申分なかった)。
七時出立、松原がよろしい、お弁当のおもいのもうれしかった、赤岡町まで二里半、途中行乞(功徳は銭七銭米六合)。
午後はひたすら高知へ強行した、申訳ないけれど、第二十八番、第二十九番は遥拝で許していただく、風が出て来たが、ほどなく凪いで、のどかな小春日和になった、御免からは路面舗装、身も心も軽い、思いかけなく、電車から降りた母子の方から拾銭玉を頂戴した(この十銭が私を野宿から助けてくれた!)。
いそいだけれど暮れて高知着、まず郵便局で郵便物を受取った、いろいろ受取ったけれど、期待したものはなかった、がっかりした、お札所横の山西屋に泊る、名を売っているだけ客扱もよく客人も多い、おいしい御飯をたべ風呂に入って、ぐったり寝た、アルコールなし。
米八合渡して(内五合は飯米)不足金二十銭払った。
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┌米八合渡 内五合は飯米┐
└金十三銭払 ┘
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(夕食) (朝食)
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焼魚 味噌汁二杯
菜葉ひたし 削節
沢庵漬 たくあん二片
さしみ 味噌汁二椀
蓮の煮付 菜葉の煮たの
漬物 漬物
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金がある時は金のない時を考えないけれど、金のない時は金のある時を考える、……私たちのようなものの痛いところだ。
かけだし夫婦[#「かけだし夫婦」に傍点]はすぐ解る! と宿の人々がいう、なるほど、そうだで。
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落日いろいろ[#「落日いろいろ」に傍点]
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大洋、都市、田園、山中。
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(十一月十日)
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墓地はしづかなおべんたうをひらく
梅干あざやかな飯粒ひかる
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行乞即事
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あなもたいなやお手手のお米こぼれます
まぶしくもわが入る山に日も入つた
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高知城
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お城晴れわたる蔦紅葉
銅像おごそか落つる葉もなく
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土佐路所
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