日は今日の風に任せる[#「今日は今日の風に任せる」に傍点]、……好日好事[#「好日好事」に傍点]だった、ありがたしありがたし。
夜はおそくまで執筆(一室一人一燈のよさだ)、昨夜をとりかえしたような気がした。
先日から地下足袋が破れて、そのために左の足を痛めて困っていたところ、運よくゴム長靴の一方が捨ててあるのを見つけた、それを裂いて足袋底に代用したので助かった、――求むるものは与えらる[#「求むるものは与えらる」に傍点]ということ、必要は発明の母[#「必要は発明の母」に傍点]という語句を思いだしたことである。
寒い地方の人がまろい[#「寒い地方の人がまろい」に傍点]、いいかえると、温かい地方の人間は人柄がよくない、お修行しても寒いところの方がよく貰えると或る修行遍路さんが話した、一面の道理があるようだ。
行乞していると、今更のように出征の標札[#「出征の標札」に傍点]――その種類はいろいろある、地方によって時節によって異るが――その標札が多いのに気がつく、三枚も並べてあるのにはおのずから頭がさがる。……
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安宿では――木賃宿では――遍路宿[#「遍路宿」に傍点]では――
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□一人一隅[#「一人一隅」に傍点]、そこに陣取って、それぞれの荷物を始末する。
□めいめいのおはち[#「めいめいのおはち」に傍点]を枕許に(人々の御飯)。
□一室数人一鉢数人一燈数人。
□安宿で困るのは、便所のきたなさ、食器のきたなさ、夜具のきたなさ、虱《ムシ》のきたなさ、等々であろう。
○安宿に泊る人はたいがい真裸[#「真裸」に傍点](大部分はそうである)である、虱がとりつくのを避けるためである、夏はともかく冬はその道の修行が積んでいないとなかなかである(もっとも九州の或る地方のようにそういう慣習があるところの人々は別として)。
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(夕食)        (朝食)
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莢豆と芋との煮付    味噌汁二杯
南瓜の煮付       大根漬
大根浅漬
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御飯もお茶もたっぷり  たっぷり

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犬二題
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□四国の犬で遍路に吠えたてるとは認識不足[#「認識不足」に傍点]
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