三八九雑記
種田山頭火

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)土鼠《もぐら》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから2字下げ]
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 なんとなく春めいてきた、土鼠《もぐら》がもりあげた土くれにも春を感じる。
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水のいろも春めいたいもりいつぴき
[#ここで字下げ終わり]
 私もこのごろはあまりくよくよ[#「くよくよ」に傍点]しないようになった。それはアキラメでもなければナゲヤリでもない、むろんサトリでもない、いわば、老のオチツキでもあろうか。
 近眼と遠眼とがこんがらがってきたように、或は悠然として、或は茫然として、山を空を土を眺めることができるようになった。放心! 凝心もよいが放心もわるくないと思う。
 おかげで、この冬はこだわりなく生きてきた。春になったら春風が吹くでしょう。
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終日尋春不見春  杖藜踏破幾重雲
帰来拭把梅花看  春在枝頭已十分
[#ここで字下げ終わり]
 その梅はもう盛りをすぎたけれど、あちらこちらにしろじろと立っている。裏畑の三本、前の家の二本、いずれも老
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