木、満開のころは、一人で観るのにもったいないほどであった。
道べりの二三本、これは若木だが、すこし行くと、ここにも一本、そこにも一本というぐあいで、なかなかのながめであった。こんなところもあったのかと驚くぐらい、花をつけてはじめて、その存在をはっきりさせている。
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咲いてここにも梅の木があつた
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ここ矢足は椿の里[#「椿の里」に傍点]とよばずにはいられないほど藪椿が多い(前のF家の生垣はすべて椿である)。
ぶらぶら歩いていると、ぽとりぽとり、いつ咲いたのか、頭上ゆたかに、素朴な情熱の花がかがやいている。
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水音の藪椿もう落ちてゐる
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水仙がおくれてやたら[#「やたら」に傍点]に咲きだした。先住者が好きだったのだろう、畑のあちこちにかたまりあって、清純たぐいなき色香を見せている。そんなわけで、仏壇も水仙、床の間も水仙、机の上も水仙です(この花にはさびしいおもいでがあるが、ここには書くまい)。
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水仙こちらむいてみんなひらいた
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大根と新
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