雑信(二)
種田山頭火
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)嚔《くさめ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#感嘆符三つ、49−5]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)トボ/\
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△今朝、思いがけなく本集をうけとりました。前集ほど振っていないという評には誰も異議はありますまい。句が総じてダレています。無理に拵えたらしい痕跡があります。
△私は此度もまた出句することが出来ませんでした。自分は出句もしないで、こういう勝手な文句を並べる――実は済まない、不都合千万だと思います。併し詮方がありません。私には今の処どうしても句が作れません。句作の余裕――句材があってもそれを句として発表するだけの心のユトリがありません。私は此頃非常に心身が動揺しています。それがために殆んど家業をも省みないほどの慌しい押し詰った生活を続けています。どうぞ私を赦して下さい。そしてもう少し考えさして下さい。
△五句集の組織について色々の御意見がありますが、それによって五句集に対する諸君の熱心な真面目な態度が窺われて私は至極喜んで居ります。自から省みて自分の俯甲斐なさを責めずにはいられません。発奮せずにはいられません。
△私は私だけの意見をチョッと述べて置きます。石花菜君の説には賛成ですが、今は其時期であるまいと思います。やっぱり碧松君のいわれるように本五句集は本五句集として今迄通りの経路を進んでゆくのがよかろうと思います。一言にして尽せば私は現状維持論者です。
△一転しつつある私は懐疑に生きて居ります。私は俳句其物に就て諸君の御高見を承りたいと切望しています。句の巧拙とか優劣とかいうこと以外にまた句材とか句法とかいうものについて御経験を示して戴きたいと思います。そして時々『何故我々は句作するか』という疑問を提出して考えたり論じたりするのは一面非常に無知な、そして一面非常に意味あることだろうと信じて居ります。
[#ここで字下げ終わり]
△ △ △
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△華やかな春にあこがれていられる石花菜君の若々しい感情を祝福する。緑大野にそそり立つ樫樹のような碧松君の堅実な歩調を尊敬する。そして折からの凩に嚔《くさめ》をしたり苦笑したりする破口栓君の心持に同情する。私は三君とりどりの態度に動かされた。私もまた私の一部を暴露したい。荒んで石塊のように硬張った私の感情を少しばかり披露したい。あの大道芸人が群衆の前にその醜い髯面をさらすように!
△私にも春があった。青い花を求め探した、黄ろい酒を飲み歩いた。赤い燃ゆるような唇を吸った。強烈なもの、斬新なもの、身も心も蕩けてしまうようなもの、熱愛する恋人を弄り殺して剖き取った肉のようなものを貪ぼった――実人生を芸術化しようとして悶え苦しんだ、悶え苦しんで何を得た? あゝたゞアルコール中毒!
△自己批評は三人の私生児を生んだ。自棄生活、隠遁生活、そして自己破壊。私はそのいずれと結婚したか。……
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深い穴がある。
冷たい風が吹く。
誰やら歩いてくる――
灰色の靄の奥から、
トボ/\と歩いてくる。
誰だ!
シツカリしろ!
ビク/\するな、
急げ、急げ、
愚図々々せずに急いで来い!
危ない、気を付けろ!
穴がある、
深い穴がある、暗い穴がある。
落ちるぞ、いつそ飛び込め!
――あ、彼は――私はヅドンと倒れた※[#感嘆符三つ、49−5]
[#ここで字下げ終わり]
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△人生には解決がない。ただ解決らしいものが一つある。それは死だ! と誰やらが叫んだ。然かも死そのものを信じえない人にとっては死もまた解決らしくさえない!
△人生とは矛盾の別名である。矛盾に根ざして咲いた悪の華、それが芸術だと信じていた。今でもそう信じている。と同時に芸術はどうしても道楽という気がして仕方がない。現実の苦痛に泣笑しつつ都々逸でも唄いたくなる。情ない、あさましいと思うけれど、事実は飽くまでも事実である。
△放浪によりてえたる貧しき収穫より――旧作□
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美しき人を泣かして酒飲みて調子ばづれのステヽコ踊る
旅籠屋の二階にまろび一枚の新聞よみて一夜をあかす
酒飲めど酔ひえぬ人はたゞ一人欄干つかみて遠き雲みる
酔覚の水飲む如く一人《いちにん》に足らひうる身は嬉しからまし
[#ここで字下げ終わり]
△ △ △
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
△先日の句会では愉快でした。持病の饒舌で諸
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