て二輪空寂になりたい。
昼飯代りに柏餅五つ、五銭は安かつた、いはんや、新聞を読まして貰ひ、マツチを貰つたに於ておやである。
ありがたい雨だつた、草も木も人もよみがへつた、畑仕事をする人々が至るところに見られた。
欽明寺峠は峠としては何でもないが何しろ長い、秋草、虫声がよかつた、萩の老木は口惜しいほど欲しかつた。
師木野《シギノ》といふところ、鉄道工事風景が興味ふかゝつた。
夕雀、赤子の泣声、犬の吠えるのも旅のあはれだ。
しんせつなおばあさん、ふしんせつなおぢいさん。
路傍の荷馬車小屋で野宿の支度をしつゝあつたお遍路さんがていねいに挨拶した、私もねんごろに会釈した、彼の境遇を羨ましく感じるほどそれほど私はまだ私の生活に徹してゐない、恥づべきかな。
暮れて急いで道を間違へて、岩国の馴染の宿(昭和二年にも四年にも世話になつた)へ着いたのは八時頃だつたらう、地下足袋をぬぎ法衣をぬいで、やれ/\、「周東美人」を二、三杯ひつかける、どうも酒はうますぎますね。
木賃三十銭、中の上、または上の下とでもすべきか。
宿の主人夫妻がめつきり年をとつてゐる、娘がもう年頃になつてゐる。……
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