「空高雲多少」に傍点]――といふ語句が行乞途上でひよいと浮んだ、昨今の私の心境そのまゝである。
何でもない山村風景、その何でもないところに何ともいへないよさ[#「よさ」に傍点]がある、かういふよさ[#「よさ」に傍点]がほんたうのよさ[#「よさ」に傍点]だらう。
或るおかみさんと道連れになつて、彼女がいかに夫思ひで、そして子煩悩であるかを見せつけられた、彼女に幸あれ。
里程を訊ねてもよく知らない人が多い、しんせつにせいかくに、教へてくれる人はなか/\すくない(安宿のおかみさんは、おばあさんでもさすがによく知つてゐるが)、今日訊ねたら、その一人はよく教へて下さつた、彼は中年の不具者[#「中年の不具者」に傍点]だつた。
川原へ出かけて、からだを洗ひふんどしを洗つた。
宿の病弱なおかみさんが月おくれ雑誌を貸してくれた、その厚意はありがたい、去年の夏の富士!
宿の便所はきれいだつたが(安宿の便所は殆んど例外なしにきたない)私の夢はいやにきたなかつた。
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・はぎがすゝきがけふのみち
・ゆつくりあゆめば山から山のかげとなつたりひなたとなつたり
・水が米をついてくれるつく/\ぼう
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