だ、どこからか三味の音がする、わしが国さを弾いてゐる、虫の声、犬の声もさわがしくないほどに。
同宿同室は鮮人、彼も失職者、よく話すけれど嫌味がない、どこでも働らきたい、金を貯めて家庭を持ちたいといふ、彼によき妻あれと祈つた。
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今晩の御馳走(きうりなます、にざかな、いも)
昼飯はぬき
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・まことお彼岸入の彼岸花
・よべのよい雨のなごりが笹の葉に
・道がわかれて誰かきさうなもので山あざみ
・レールにはさまれて菜畑もあるくらし(踏切小屋)
・山ふかく谺するは岩をくだいてゐる音
蛙とびだしてきてルンペンに踏み殺された
・仕事は見つからない眼に蜘蛛のいとなみ
・あれが草雲雀でいつまでもねむれない
・旅のからだをぽり/\掻いて音がある
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九月廿二日[#「九月廿二日」に二重傍線]
晴、秋暑し。
午前中は西条町行乞、午後はゆつくりと歩みつゞける。
予定が狂つて、本郷までは無理だから、途中安宿がないから、すこし左折して新庄といふ田舎の宿に泊る。
宿もわるくないが、山はだんぜんよい。
上の下で屋号本岡屋、三十銭。
空高雲多少[#
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