職して帰るときは一椀五銭の朝鮮飯にもありつけなかつたといふ、すこし奔走[#「奔走」に傍点]して来ませうといつて、そこらの民家から握飯を貰つて、むしやむしや食べる、――おもしろい、それ以上の何物でもない。
昨夜は海田市町はづれの神社で五人のルンペンと一夜を明かしたさうな、ルンペンが職業化しない限り、いひかへれば、生活の手段としてルンペンをやら限[#「ら限」に「マヽ」の注記]り、人間は一度ルンペンになるがよろしい、ルンペンの味は人間味の一つ[#「ルンペンの味は人間味の一つ」に傍点]だから。
二時近くなつて西条着。感じのわるくない町だ、金本屋といふ安宿へ泊る、木賃三十銭、上の下といふところ、主人は少し調子はづれと見たは僻目か。
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今日の行程四里、所得は十弐銭と五合。
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関西第一の酒造地に泊つて、酒が飲めないとは『宝の山に入りながら……』の嘆なきにしもあらずだつた(財布には五厘銅貨が六銭あるだけ)。
今夜も風呂がない、初めて蚊帳をつらないで寝た。
雨はまだ二日も降り続けないのにもう雨を嫌つてる声が聞える、あれだけ待ち望んでゐた雨だのに!
しづかな宿
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