る朝の山
・ぐつすりと寝た朝の山が秋の山々
 秋の山へまつしぐらな自動車で
   改作追加
 あるくほどに山ははや萩もおしまい
[#ここで字下げ終わり]

 九月二十日[#「九月二十日」に二重傍線]

曇、まだ降るだらう、彼岸入、よい雨の瀬《セ》音。
歩いてゐるうちに、はたして降りだした、しようことなしに八本松は雨中行乞、どうやらかうやら野宿しないですみさうだ。
濡れて歩く、一歩一歩、両側の山が迫る、谷川の音がうれしい。
すゝき、はぎ、そしてききようやあざみや、名も知らぬ秋花。
山家に高くかゝげてある出征の日の丸、ぶらりと糸瓜。
「良い犬の子あげ升」といふ紙札。
萩は捨てがたい趣を持つてゐるが、活ける花でも植ゑる花でもない、生えて伸びてこぼれるべき花であることを知つた。
ありがたかつたのは、山路で後になり先になつてゐたおぢいさんがあまりゆたかでもなさゝうな財布から一銭喜捨して下さつたことだつた、この一銭は長者の千万金よりもありがたい。
八本松から西条までルンペン君と道連れになつた、彼はコツクで満洲から東京まで帰るのだといふ、満洲へいつたときは汽車辨当がまづくて食へなかつたのに、失敗し失
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