下せよ。
午後は雨、合羽を着て歩いた、横しぶきには困つた、二時半瀬野着、恰好な宿がないので、さらに半里ばかり歩いて、一貫田といふ片田舎に泊つた、宿は本業が豆腐屋、アルコールなしのヤツコが味へる。……
相客は一人、若い鮮人で人蔘売、おとなしい人柄だつた。
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今日の行程は五里。
所得は(銭三十銭、米四合)
              二五中ノ上
御馳走は(豆腐汁、素麺汁)
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前が魚屋だからアラがダシ、豆腐はお手のもの。
早くから寝た、どしやぶりの音も夢うつゝ。
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・朝がひろがる豆腐屋のラツパがあちらでもこちらでも
・やつと糸が通つた針の感触
 時化さうな朝でこんなにも虫が死んでゐるすがた
・朝の土をあるいてゐるや鳥も
・旅は空を見つめるくせの、椋鳥がさわがしい
・また一人となり秋ふかむみち
・この里のさみしさは枯れてゐる稲の穂
・案山子向きあうてゐるひさ/″\の雨
・案山子も私も草の葉もよい雨がふる
 明けるより負子を負うて秋雨の野へ
 ひとりあるけば山の水音よろし
・よい雨ふつた朝の挨拶もすずしく
 一歩づつあらはれてく
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