するが故に新らしく、流転するが故に成長するのである、否、流転即成長[#「流転即成長」に傍点]なのである。
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・煙幕ひろがつてきえる秋空
・突撃しようす[#「うす」に「マヽ」の注記]る空は燕とぶ
・タンクがのぼつてゆくもう枯れる道草
・鉄兜へ雑草のほこりがふく
   改作追加
・はてしない旅もをはりの桐の花
・晩の極楽飯、朝の地獄飯を食べて立つ
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 九月十九日[#「九月十九日」に二重傍線]

曇、小雨がふつてゐるが、引き留められたけれど、出立する、私としては長い滞在であつた、大山夫妻の心づくしはいつまでも忘れないであらう、忘れられないであらう。
尻からげ一杯、この一杯にも澄太さんの心づくしがある、おべんたう、こゝにも奥さんの心づくしがある。
饒津神社の境内で、独[#「独」に「マヽ」の注記]壺さんがきて写真をうつした、それからいよ/\お別れだ、……山頭火一人だ。
私は東へ急いだ、十時から十二時まで海田市町行乞、行乞相申分なしといつてよからう。
私はたしかにこの旅で一皮脱いだ[#「一皮脱いだ」に傍点]。
慾望をほしいまゝにするなかれ、貪る心を放下せよ。
午後は雨、合羽を着て歩いた、横しぶきには困つた、二時半瀬野着、恰好な宿がないので、さらに半里ばかり歩いて、一貫田といふ片田舎に泊つた、宿は本業が豆腐屋、アルコールなしのヤツコが味へる。……
相客は一人、若い鮮人で人蔘売、おとなしい人柄だつた。
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今日の行程は五里。
所得は(銭三十銭、米四合)
              二五中ノ上
御馳走は(豆腐汁、素麺汁)
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前が魚屋だからアラがダシ、豆腐はお手のもの。
早くから寝た、どしやぶりの音も夢うつゝ。
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・朝がひろがる豆腐屋のラツパがあちらでもこちらでも
・やつと糸が通つた針の感触
 時化さうな朝でこんなにも虫が死んでゐるすがた
・朝の土をあるいてゐるや鳥も
・旅は空を見つめるくせの、椋鳥がさわがしい
・また一人となり秋ふかむみち
・この里のさみしさは枯れてゐる稲の穂
・案山子向きあうてゐるひさ/″\の雨
・案山子も私も草の葉もよい雨がふる
 明けるより負子を負うて秋雨の野へ
 ひとりあるけば山の水音よろし
・よい雨ふつた朝の挨拶もすずしく
 一歩づつあらはれてく
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