中庵独得の酒宴がはじまる、うれしやめでたや。
提灯がないので、暗くて蝮の危害を懼れて、樹明君即製の灯火[#「灯火」に傍点]をふりかざして帰つてゆく、昭和の討入よろしくといつた風態!
私は酔うてぐつすりと寝た。
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・いなびかり別れて遠い人をおもふ
 こうろぎこうろぎ風鈴が鳴る
[#ここで字下げ終わり]

 八月十七日[#「八月十七日」に二重傍線]

朝、敬坊来、それから樹明来、私が使者となつて酒と豆腐と味噌と焼魚とを仕入れて戻る、夕方まで三人でゆつくり飲む、樹明帰宅、敬坊と私とは街を散歩する、そして敬坊は泊つた。
書物を食べる虫[#「書物を食べる虫」に傍点]! 油虫が新刊歳事[#「事」に「マヽ」の注記]記の表紙を舐めて剥がしてしまつた。
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   追加
・おべんとうをひらく雀も何やら食べてゐる
・昼寝覚の夕立の水音が鳴りだした
[#ここで字下げ終わり]

 八月十八日[#「八月十八日」に二重傍線]

昨夜は二人共安眠熟睡だつた。
敬治君は朝飯も食べないで早々帰つていつた。
△私は狷介だけれど、友には恵まれてゐる、それを何よりもありがたいと思ふ。

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