桟橋の涼風が身心をさはやかにしてくれた。
昨日は山の青さ、今日は海の青さ、明日はまた山の青さを鑑賞することができる。
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 朝月残る木槿が咲いてゐるながれ
 島へ渡しの、氷や菜葉や郵便や
・氷屋ができて夾竹桃の赤や白や
・落ちてきて米つく音の水がながれる
・近道のいちはやく山萩の花
・水は岩からお盆のそうめん冷やしてある
  行乞雑感(一)
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 八月十一日[#「八月十一日」に二重傍線]

晴、暑かつたが気持は軽かつた、仙崎町行乞、そして滞在、新相客は伊佐で同宿の老遍路。
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行乞雑感(二)
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 八月十二日[#「八月十二日」に二重傍線]

明けてゆく海の色はうつくしかつた。
六時出発、深川町を行乞しはじめたら大夕立がきた、そして地雨らしく降りつゞける、馴染の川本屋へとびこむ、こゝの主人公――押入聟さん――は私の放浪時代に度々同宿して打解けた飲友達だ、久振に一杯やらうといふので一升買つた、酔うて唄うて踊つて――誰も彼もいつしよになつて――近来の大散財なり。
前後不覚になつて、どうして寝床にはいつたや
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