へ二里、十時頃に着いた、さつそく行乞をはじめる、今日はどういふものか気分がすぐれない、手当り次第に何でもぶちこわしたいほどいら/\してゐる、かういふ場合の行乞はとても苦しい、自他共に傷づく行為である、しかし私は無理にも行乞しなければならないのだ、私は銭が欲しいのだ、不義理な借金をいくらかづゝでも払はなければならないのだ。――
仙崎まで三里の間、行乞しつゞけた、中途で橋の下の草の上で昼寝などして。
投げてくれた一銭銅貨は投げかへしてやつた。
田舎饅頭、五銭で六つはうまかつた。
若い飴売鮮人と話し合うた。
こぢれた気分がすこしづゝほぐれた、こだはるな/\、水のながれるやうであれ[#「水のながれるやうであれ」に傍点]。
仙崎の宿はよかつた、設備(部屋も夜具も便所も湯殿も井戸も)待遇(その大半はおかみさんのサービス如何にある)共によかつた、木賃料は一昨夜の宿とおなじく三十銭だが、その倍の値打はある、相客三人、屋号は寺田屋。
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今日の所得(銭六十四銭、米二升二合)
晩のおかず(さしみ、茄子、焼海老)
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夜は近所のお寺の夜店を見物した、観音祭らしい。
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