に二重傍線]
朝曇、涼しかつた、七時出立。
山の奥へ奥へと分け入つてゆく、霧がたちこめてゐる、時鳥がなく、途上ところ/″\行乞。
売られてゆく豚のうめき、水蜜桃の供養、笑顔うつくしい石仏。
どこでも土用干の着物が色とり/″\、私は何を干さうか、支那の何とかいふ奇人のまねではないが、破れ法衣に老いぼれ身心でも干さうよ、いや現に干しつゝあるではないか。
彼のよしあし、それはやがて私のよしあしだつた、行乞の意義はこゝにもある。
嘉万の街を行乞してゐるところへ伊東さんが自転車でやつてきた、今夜は八代でゆつくりとよい酒を飲む約束で、此地方へ出かけてきたのだが、万事都合好く運びつゝある(君は醤油味噌醸造の講師として出張したのである)、山のまろさ酒のうまさ人のよさ!
負子[#「負子」に傍点](朝鮮ではチゲ)は印象ふかく眺められる。
八代の共同作業所へ着いたのは五時過ぎだつた、そして意外にも樹明君が後を追うて来た、小郡から自転車で二時間半で飛んだのである。
生一本、此地方でいはゆる引抜はよかつた、N家の酒はよい酒である、そのよい酒の最もよい酒だ、酔うて蚊帳もつらずに寝たのはあたりまへだらう。
私の好
前へ
次へ
全19ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング