者は生来の世間師、いらないものがある。
水は正直ですよ[#「水は正直ですよ」に傍点]、といつていかけやさんが修繕したバケツに水を入れて覗いてゐる。
さすがに秋吉附近は大理石の産地、道ばたの石ころも白い光沢を持つてゐる。
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 旅立つ今朝の、蝉に小便かけられた
 朝月のある方へ草鞋はかろし
・あぶない橋の朝風をわたり山の仕事へ
 笹に色紙は七夕の天の川
・そこは涼しい峠茶屋を馬も知つてゐる
・夕立晴れた草の中からおはぐろとんぼ
・昼寝覚めてどちらを見ても山
・おのが影をまへに暑い道をいそぐ
 暮れると水音がある暗い宿で
・月夜の音させる牛も睡れないらしく
・旅はいつしか秋めく山に霧のかゝるさへ
・霧ふかく山奥は電線はつづく
・ゆふべの鳥が三羽となつて啼いてゐる
・山のまろさは蜩がなき
・蜩のうつく[#「く」に「マヽ」の注記]りなくに田草とる
 かなかなもなきやんだ晩飯にしよう
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行程五里、行乞四時間。
今日の所得は 銭弐十六銭、米弐升八合。
木賃は三十銭 (等級は中の下)。
お菜は野菜づくし
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 八月九日[#「八月九日」
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