/\いつしよに樹明居襲撃ができなくて。
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   改作
・からりと晴れたる[#「る」に白三角傍点]法衣で出かける
   追加二句
 みんな寝てしまつてゐるポストのかげがはつきり
 見おくるかげは見えない松むし鈴むし(樹明君に)
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 八月十五日[#「八月十五日」に二重傍線]

晴、宿酔ほがらか[#「宿酔ほがらか」に傍点]である、昨夜、最後の一片まで賞味した鮒のあらひのうまさがまだ残つてゐる!
樹明来、敬坊不来。
夜、樹明君といつしよに街へ、水哉居を襲うてビールを頂戴する。
樹明君泊る。
ガチヤガチヤ、ガチヤガチヤ、轡虫が鳴きはじめた。
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 きのふの酔がまだ残つてゐるつく/\ぼうし
・ま昼ふかうして鳴子鳴る
・ゆふべの夏草をふみわける音がちかづく
・日ざかりあるくはつるんだ虫で
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 八月十六日[#「八月十六日」に二重傍線]

朝風は秋風だ。
方々から便りをもらつたりあげたり。
買物いろ/\、品多くして銭少し。
出勤した樹明君が到来のビールをさげてまたやつてくる、敬坊が酒とかしわとを持つてくる。
其中庵独得の酒宴がはじまる、うれしやめでたや。
提灯がないので、暗くて蝮の危害を懼れて、樹明君即製の灯火[#「灯火」に傍点]をふりかざして帰つてゆく、昭和の討入よろしくといつた風態!
私は酔うてぐつすりと寝た。
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・いなびかり別れて遠い人をおもふ
 こうろぎこうろぎ風鈴が鳴る
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 八月十七日[#「八月十七日」に二重傍線]

朝、敬坊来、それから樹明来、私が使者となつて酒と豆腐と味噌と焼魚とを仕入れて戻る、夕方まで三人でゆつくり飲む、樹明帰宅、敬坊と私とは街を散歩する、そして敬坊は泊つた。
書物を食べる虫[#「書物を食べる虫」に傍点]! 油虫が新刊歳事[#「事」に「マヽ」の注記]記の表紙を舐めて剥がしてしまつた。
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   追加
・おべんとうをひらく雀も何やら食べてゐる
・昼寝覚の夕立の水音が鳴りだした
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 八月十八日[#「八月十八日」に二重傍線]

昨夜は二人共安眠熟睡だつた。
敬治君は朝飯も食べないで早々帰つていつた。
△私は狷介だけれど、友には恵まれてゐる、それを何よりもありがたいと思ふ。

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