五厘銅貨でやつとなでしこ小袋を手に入れることができた。
けふは敬坊帰省の日、きつと寄つてくれると、行乞もやめにして待つてゐた、待つて、待つて、待つたあげくは待ちぼけで寝た、――と呼び起す人がある、敬坊だ、お客がきてやつてこられなかつたといふ、酒、酒、よい酒だつた。
△よう寝た、何もかも忘れて寝た、捨てるまへに忘れろ[#「捨てるまへに忘れろ」に傍点]、いや、忘れることは捨てることだ[#「忘れることは捨てることだ」に傍点]。
[#ここから2字下げ]
きのふの蝉がまだ蜘蛛の囲に時化の朝ぐもり
・胡瓜の皮をむぐそれからそれと考へつゝ
・夏草ふかい水底の朝空から汲みあげる
またもいつぴき水におぼれて死んだ虫
・朝ぐもり触れると死んだふりする虫で
風ふく鴉のしわがれて啼く
ほろりと糸瓜の花落ちた雨ふる
・蛙をさなく青い葉のまんなかに
・こんなに降つても吹いても鳴きつゞける蝉の一念
・風がさわがしく蝉はいそがしく
・風がふくふく髯でも剃らう
・ついてきた蠅の二ひきはめをとかい
・街からつかれてお米と蠅ともらつてもどつた(追加)
・竹になりきつた竹の青い空
・雑草すゞしい虫のうまれてうごく
前へ
次へ
全18ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング