わり]
今夜はお布施のおかげで、日本酒[#「日本酒」に傍点]三合いたゞく。
△途上、鮮人の一家族に心を惹かれた、世帯道具を背負うて移動する道中らしい、蒲団、飯釜、行李、子供、そして弱者劣敗者である彼等は私にまで挨拶した、私は彼等に対して好感よりも哀感を持つた。
或る農家で、おかみさんが皿に米をいつぱい盛つてくれた、くれやうが多すぎるから何かあるなと思つてゐたら、果してさうだつた、小さい子に鉄鉢をいたゞかせてくれといふ、消災呪を唱へてあげた、此頃は鉄鉢をさゝげてあるく坊主も稀だし、また子供が頭剃を嫌はない禁厭として鉄鉢をいたゞかせてくれといふ事も稀である。
△今日はめづらしくコヤトといふ方言を聞いた、コヤトは餓鬼とおなじく、子供に対する親愛と軽蔑とを意味する言葉である、ホイトといふ方言のやうにおもしろいと思ふ。
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・生きのびて蔦のからんだ門のうち
炎天の地べたへ人間をゑがく
・水に水草びつしり
・ぼろきてすずしい一人があるく
・蝉しぐれあふれるとなくあふれてゐる水
・ここが国ざかひで涼しい風
山かげの夕凪の魚がはねるさゞなみ
・ながい豆も峠茶屋のかなかな
河鹿
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