行乞すべく、湯田まで出かけたが、とう/\降りだしたので、そして止みさうもないので、残念ながら引き返した(それでも一時間あまり途中行乞することは忘れなかつた、それほど事情が切迫してゐたからでもあるし、また、それほど乞食根性に慣らされてゐるからでもある、といつてよからう!)。
よい雨、明るい雨であつた(方々で雨乞をやつてゐたくらゐだから)、まことに慈雨であり喜雨であつた。
また何か事件があつたと見えて、今朝は柳井津橋のほとりで張込の刑事に誰何された、若い、人のよい刑事だつた、私が「二三日行脚してこうと思ふのです」といつたら、「それはよい、おいでなさい」とほがらかにいつてくれた。
合羽をきたので暑かつた、この合羽もずゐぶん古いものだ。
新国道の空をもう精霊蜻蛉が飛びまはつてゐた。
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今日の所得
米 六合 銭 九銭 外に句、十三。
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帰庵したのは一時すぎ、法衣をぬぐなり、水をくんで飯を炊く、ひとりもののノンキないそがしさ[#「ひとりもののノンキないそがしさ」に傍点]である。
△童心[#「童心」に傍点]――句心[#「句心」に傍点]――老心
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