さういふ水を飲んだ、さういふ心境にはなれないが。
蕨といふ地名はおもしろい。
予定通り、二時には敬治居の客となつた、敬坊は早退して待つてゐてくれた、さつそく風呂を頂戴する、何よりの御馳走だつた、そして酒、これは御馳走といふよりも生命の糧だ。
敬坊はよい夫、よい父となりつゝある、それが最もうれしかつた、人間は落ちつかなければ人間を解し得ない、人間を解し得なければ人間の生活はない。
おはぎ餅はおいしかつた、餅そのものもおいしかつたが、それを食べる気持、それを食べさせてくれる気持がとてもおいしかつた。
生活の打開と共に句境も打開される、私も此頃多少の進展を持つたらしい。
暑くて、腹がくちくて寝苦しかつた。
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      銭 二十一銭
今日の所得          行程五里。
      米 一升二合
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 朝月暈をきてゐる今日は逢へる
 朝風へ蝉の子見えなくなつた
 朝月にしたしく水車ならべてふむ
・水が米つく青葉ふかくもアンテナ
 夾竹桃赤く女はみごもつてゐた
 合歓の花おもひでが夢のやうに
・柳があつて柳屋といふ涼しい風
 汗はしたゝる鉄鉢をさゝ
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